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「すまないが扇、整理させてくれないか?これはお前が今考えている物語というか、劇かなんかのシナリオじゃなく、あくまでもこれから起きる未来だと言うんだな?」 ナオトは視線を扇に向けながらそう尋ね、片手で震えるカレンを抱きしめ、なだめるよう背中をさすっていた。 まだ10歳にもならない子供の前で、扇は戦争の悲惨さや、どれほどの迫害を受けたか、どのように皆が死んでいったのかを克明に語った。 普通の子供であれば、悪夢にうなされるレベルの内容。 それを喜々として話す扇に、不快感を感じてしまうのは仕方がないことだろう。 たとえこのカレンが未来を全て知っていて、今は怯える演技をしていたとしても、だ。 人のことをよく見、周りを気づかえるはずだった親友は、本当に変わってしまったのだなと、思わず目を細めた。 「ああ、信じてくれえナオト。俺達は2028年から戻ってきたんだ。だからこれから起きることも全て知っている。だから」 扇は結論を急かせるように口を開いたため、ナオトは空いている方の手を上げてそれを制した。 「解った、解ったから。扇、頼むから整理させてくれ。一緒に来ている・・・えーと、俺がレジスタンスのリーダーとなった時に、一緒に組んでいた人たちは全員その、2028年の記憶があるのか?」 眼の前に座るのはナオトの親友、扇要。 そしてその横に南佳高、杉山賢人、後ろに井上直美、吉田透、玉城真一郎。 この6人とナオト、カレンでレジスタンスグループとして活動していたという。 名前は紅月グループ。 ナオトの死後は扇グループと呼ばれた。 「ああ。皆覚えている。ただ、井上と吉田は2028年まで生きていないんだ。お前よりは後だが・・・2017年に起きたトウキョウ決戦、ブラックリベリオンにおいて 名誉の戦死を遂げた。だが、彼らにもその後3年分の説明はしている」 「そうか、そして俺が死んだ後、ゼロと名乗る仮面の男をリーダーとし、黒の騎士団というグループを立ち上げたと」 「ゼロは俺達を騙してたんだ!あいつは」 「扇、いいから少し黙ってくれ。俺に内容を整理させてくれないか。お前たちにとっては当たり前の話だとしても、俺から見れば夢物語だ。ブリタニアと戦争なんて、確かに可能性があると連日報道もしているし緊迫もしているが、まだ見ての通り平和なんだ。そこに急に未来の話を持って来て理解しろと言われても困るだろう?だから少し整理させてくれ。頼むから」 「ナオト、俺の言う事を信じてないのか?」 話を整理させてほしいと頼むナオトの言葉を何度も遮り、自分の考えを語ろうとする扇。話はなかなか進まず、とうとう話を聞いていた一人が声を上げた。 「扇ぃ~。いいから落ち着けって。戦争までまだ時間あるんだしよ。俺ら全部知ってるんだし焦る必要ないって。ナオトは俺達を信じてないって言ってないだろ?話を整理したいって言ってるんだ。ナオトが整理し終わるまで待ってもいいじゃねーか」 ここに居る中で一番問題児と思える、見るからに不良という姿の男、玉城が壁に寄りかかり、だらけた姿で座りながら扇にそう言った。 「あ・・・ああ。そうだな。済まないなナオト。少し焦りすぎたようだ」 「いや、本当に過去に戻ってきたのなら混乱するのは当たり前だし、戦争が起きるなら焦るのも当然だ。・・・えーと、玉城くん、だったかな」 「玉城でいいぜ。前はそう呼んでたからな」 「そうか、じゃあ玉城、聞きたいんだが、そのKMFと言うのは誰でも動かせるのか?」 「ん~まあ、車の運転みたいなもんだよ。俺達の中ではカレンが最強だったんだぜ。なにせあのナイトオブゼロにも勝つんだからすげーよな!」 自慢気にそう玉城は告げたが、カレンが眉を寄せたことに気づき、ああ、わりぃ。と口ごもった。 「まあ、戦争だからな。俺達は全員人を殺してるから、まあ、カレンもな。最強ってことはそういうことだしな」 つまりカレンもKMFに騎乗し多くの人間を殺した。 玉城は言いづらそうに頭を掻き、目を逸らしながらそう告げた。 「そうか。そしてゼロの指揮下に入り、黒の騎士団はレジスタンスというだけではなく、弱者を救う正義の味方としても活動をした。ユーフェミア?というブリタニアの皇女が行政特区日本、つまり日本人の自治を認める特別区を作ると宣言し、その式典において皇女は集まった日本人を虐殺、そしてブラックリベリオンと呼ばれる東京決戦が起きたと。これが2017年なんだな?」 ナオトは視線を扇に向けると、扇はそうだと嬉しげに頷いた。 ナオトは頭がよく理解力も高い。普通なら一笑しそうな話でも真剣に聞き、そして理解しようとしている姿を、扇グループの面々は懐かしそうに、そして嬉しそうに見ていた。 「そして2018年、再びゼロが現れる。ブラックリベリオンでブリタニアに捕まり処刑されたはずのゼロが再び姿を見せたわけだ。ということは二人目。別人ということか」 「いや、同一人物だ」 「だが、2017年に処刑されたんだろう?」 「それはあいつがギアスという卑劣な力で」 「その不可思議な力、ギアスで逃げ出したとは思えない。もし逃げ出せたのなら、その力でブリタニアの兵を全てあやつるはずだろう?お前の話を聞く限りだとそれをしていないんじゃないか?お前たちを助けるときも、ゼロ一人でKMFに乗り、助けたと言っていたじゃないか」 「まあ、そうだが、きっとあそこに居た兵は全員あいつの部下で、俺達は全員騙されていたんだ」 扇に話を任せるとこれだ。 全てギアス。 不可思議な力のせいにしながら話を進めていく。 だから余計に話が混乱するのだ。 「騙されてたかどうかは解らないが、ギアスを知ったのはずっと後なんだろう?ならギアスの話抜きで、その当時の話しをしてくれないか」 こんなやり取りが延々と続き、ゼロの正体がルルーシュという皇族で、世界中がルルーシュに騙され、いいように踊らされていたんだという話に持っていかれる。 それでもナオトは根気よく、ギアス抜きの話を聞き出していった。 そして、2028年までの話を聞き終え、一息つこうと母の買ってきたジュースとお菓子を皆で口にした。 「それで?扇、お前は俺の所に皆を連れてきて、何をするつもりだ?」 「ルルーシュを探す。確か前にカレンが言っていたんだ。ルルーシュは日本に戦前から住んでいたと。ならルルーシュを見つけ出すことができれば、ブリタニアと取引ができる」 「・・・皇子を人質にとり、戦争を仕掛けるなと、脅迫するのか?」 ナオトは眉を寄せ、扇に尋ねた。 それは犯罪。完全に国際問題になる内容で、日本政府も敵に回すような発言だった。そこに正義など欠片もなく、正義の味方を名乗った黒の騎士団の副指令の言葉とは思えない内容。 「違う。ルルーシュが未来にやる悪事全てを知らせ、ルルーシュの身柄と引き換えに日本を守るんだ」 今ナオトが言った事とどう違うのだろう。 ルルーシュを見つけ出す。 ルルーシュの身柄と引き換えに日本を守る。 それはつまり人質に取り脅迫するのと同じこと。 ナオトは扇の発言に眉間の皺を深くした。 「ブリタニアの皇帝がそれに乗ってくると?」 乗ってきたとしても、ルルーシュを取り戻した時点で終わりだ。皇子を人質に取る卑怯で卑劣な犯罪者の相手などしないだろうし、戦争を行うための大義名分を相手に与えるだけで、日本にとってマイナスにしかならない愚策だ。 「皇帝は解らないが、シュナイゼルならきっと理解ってくれる」 「シュナイゼル?」 「ああ。シュナイゼルも皇族で、ブリタニアの宰相だった男だ。今は、解らないが・・・」 「何故シュナイゼルなら理解ってくれるんだ?大体、今の宰相はシュナイゼルという名ではないし、地位のない者と取引しても戦争は回避できないだろう」 「それはきっとシュナイゼルが上手くやってくれる」 「・・・ルルーシュといったか。ゼロと名乗り、日本を開放するためレジスタンスをまとめ、黒の騎士団を超合集国と呼ばれる連合国家唯一の軍隊にまで成長させた人物は信用出来ないが、敵の宰相だったシュナイゼルは信用できると?」 ナオトの探るような問に、扇は理解ってくれたかと笑みを浮かべ大きく頷いた。 |